HOME > 学習ノート> >お腹のみかた、触れ方① 鍼治枢要 矢野白成原述 久次米晃先生 翻刻・現代語訳から抜粋し転載しています。 1探模の法 腹の診察では、中脘(ちゅうかん)より上を上焦(じょうしょう)と言い、中脘から臍までを中焦(ちゅうしょう) と言い、臍から下を下焦(かしょう)と言う。 自分の気を腹底に下ろし、心を空白にして、自身の腹を診るつもりで至誠の気持ちで診ると、病人の虚実が自然と 自分の心に伝わってくる。これが要諦(ようてい)である。 手を腹において、まず上焦を候う(うかがう)。肚腔(とくう)がおだやかで潤沢さがあり、手と呼吸が同調して 遮るものがなく、おだやかで規則正しい動気がある場合は、上焦の気が正常であると診断する。次に中焦を候って 同様である場合は、胃の気が正常であると診断する。 更に、下焦を候って同様である場合は、元気が壮ん(さかん)で腎精が充実していると診断する。 その後、中指の指頭(しとう)を腹に当て、上焦の任脉上を按じて(あんじて:押圧)、痛いか快いかを問う。 痛いと感じる場合は、実邪であるか新病のいずれかであると診断する。 快いと感じる場合は、虚邪であるか旧病のいずれかであると診断する。 更に、中焦・下焦、気海(きかい)・関元(かんげん)までも同様にする。 以上は、正中線上を上から下へと按じるのである。 次に、左側を下焦から上焦まで按じて、邪気(じゃき)の所在を探り、痛いか快いかを問う。左下から左上まで達 する。 その後、右側の上焦から下焦までを同様にする。やり方・問い方は左と同じである。右上から右下まで達する。 以上を、腹の三部九候(さんぶきゅうこう)と言う。 臍下一寸五分を気海といい、ここを按じて一寸五分ほど指を沈めて、腎間の動気を候うのが、最も重要である。 ここを按じて、力がなく、指に反応が感じられず、陥入するような場合は、死候(しにさふら)である。 探模して虚実を験る法 腹というものは、ゆったりとふっくらとして、上部が平らで、下部が張って大きく、鳩尾の辺りは窪み、呼吸が急 迫していず、肚腔が白くなめらかで、臍が深く窪んでいるのが、吉である。 ゆったりとしているのは、体気のめぐりがよいということである。ふっくらとしているのは、体気が充実している ということである。 上部が平らであるのは、痞満(ひまん)がないということである。 下部が張って大きいということは、元気が充実しているということである。 鳩尾(みぞおち)の辺りが窪んでいるのは、気が上衝(じょうしょう)していないということである。 呼吸が急迫していないということは、五臓が調和しているということである。 肚腔(とくう)が白くなめらかであるというのは、腎精が不足していないということである。 臍が深く窪んでいるというのは、元気が伏蔵されているということである。 以上を、実健の腹と言う。 腹が大きくても 動気がないか、あるいは腹が小さく背中にくっつきそうであり、色は黒いか、または赤く、腹肉 が痩せているわけではないが、胸と腹の区別がないほど正中線の辺りが盛り上がっている一方、臍下(さいか)が 萎縮していて、臍輪が飛び出ていて、動気は下部で感じられずに上部できつく、虚里の動気(きょりのどうき)が 衣服の上からも感じられ、呼吸が急迫したり戦慄し、このような状態が甚だしい場合は、按じてみても力がなく、 胸と腹の境目が半輪のようになっていて、腹が狭く縮んだようになっていて、按じてみても嫌がらず、腹皮が薄く て中には何も入っていないような腹は、よくない腹である。 腹が大きくても動気がないのは、陽が脱しているのである。腹が小さく背中にくっつくほどであるのは、体気がう まくめぐっていないのである。 色が黒いか赤いのは、陰が脱しているのである。 正中線が盛り上がって胸と腹の境目がはっきりしないのは、邪気が逆衝しているのである。 臍下が萎縮し、臍輪が飛び出ているのは、元気が消耗しているのである。 動気が下部にあらわれず、上部にきつく出ているのは、宗気(そうき)が漏れているのである。 呼吸が急迫しているのは、表裏から邪が挟んでいるのである。邪が表にある時は、呼吸が戦慄する。 これらを按(あん)じて力がないものは、虚耗の極みである。 胸と腹の境目が半輪のようになっているものは要注意である。 腹が狭く縮んでいて、腹皮の薄いものは、元気が虚脱しているのである。 これらを虚耗、要注意の腹と言う。 按腹図解 「按腹図解」久次米晃先生の現代語訳から、独自にまとめながら記載しています。 ■候腹弁 候腹法については、古い医学書には詳しい論述がない。『黄帝内経』の「脉要精微論」に「五臓の気 の過剰と不足、六腑の気の強弱、形体の盛衰を認識すべきである」とあり、また『難経』の「八難」に は「腎間で動く気が、五臓六腑はもちろん、十二経脈を初めとしてすべての循環器官、呼吸を初めとし てすべての生理機能、三焦即ち栄衛の生成される部位の機能、それらすべての根本的な源である」など と論じているけれども、腹候法を具体的に説明しているわけではない。その他の医学書でも腹証は多く 取り上げられているが、どの書物も腹候法については具体的に説明していない。我が国では、最近にな って、香河脩徳子が『行餘医言』を著して、その中で腹候法を論じている。その論述は具体的ではある が、それでも十分説明しきれていない部分があり、「虚腹」と「病腹」とを混同しているという類の誤 りが多い。 こういう状況を考えて、私は腹候法について詳しく論じようと思う。一般的に言って、按腹術を行お うとする者は、何よりも腹候法に明るくなければならない。 腹を候う場合、基本的に五種類の状態がある。それは実・虚・動悸・攣急・結塊である。実というの は、腹の皮が厚く全体が剛強で、動悸が強いわけでもなく、攣急・結塊もなく、肌が滑らかであるとい う状態で、「壮実」の腹証を示している。とりたてて按腹術を行うほどではない。次に、虚というのは、 腹の皮が薄く、全体の印象が柔弱で、動悸は強いが、攣急・結塊がなく、肌が乾いているという状態で、 「怯虚」の腹証であり、みだりに按腹術を行ってはいけない。家法・収神術を用いて、元気を補充する のがよい。そのようにしないと治癒させることは難しい。(ということから、按腹の手技を主に用いるのは、次 の三つということになるが、)動悸というのは、腹中の脈動が外表に響くのを言う。静かで落ち着いている のが良く、慌ただしいのは良くない。また、攣急というのは、腹中の大きな筋が縮みこわばってしまっ ているのを言う。最後に、結塊というのは、食塊・気塊・水塊・血塊などの区別はあるけれども、腹中 に塊ができているという点では同じである。 以上のことから、動悸・攣急・結塊の症状はそれぞれ異なっているとは言えるが、それらを治療する 方法は同じである。動悸であっても攣急であっても、それらを治療するためには、まずその症状のある 部位の裏側にあたる背部をじっくりと解釈(ときほぐし、ゆるめる。詳しくは、後記の「家法導引三術図解」を 参照。)し、その次に症状部位の周りをゆっくりと解釈し、更にその部位そのものを静かに少しだけ指圧 する気持ちで解釈する。その後にゆっくりと調摩(軽擦・マッサージ。後記参照。)しなければならない。以 上のように数回施術すると、動悸は鎮静し、攣急はほぐれ、結塊は消失する。速く効果を上げようと焦 り、部位の上をあくまでも強く指圧してはいけない。予想外の変化が生じ、症状が急に悪化してしまう ということが起こる。そのようなことを慎むよう、肝に銘じておかなければならない。 候腹弁 お腹には、5つの状態があるので、それを踏まえ、術を施すか、否かを決定する。 x1)実 x2)虚 ◎3)動悸 ◎4)攣急 ◎5)結塊 x 按腹はしなくとも良い。してはいけない。 1)実(壮実):腹の皮が厚く、全体が剛強で、動悸が強い訳でもなく、攣急、結塊がなく、肌がなめらかである 状態。健康な状態のお腹ですので特に手を下す必要はありません。 2)虚(怯虚):腹の皮が薄く、全体の印象が柔弱で、動悸は強いが、攣急、結塊がなく、肌が乾いている状態。 家法、収神術(口伝)を用いて元気を補充することが良く、みだりに按腹はしない。 手を下してはなりません。 ※こんな場合は私たちは愉気をします。 但し、犬腹(お腹の中央部分が凹んでいる状態)の場合は決して手を出さない。 あまり良い状態とは言えず、死期が近いこともあります。 ◎ 按腹を行うのが良い。 ◎3)動悸:腹中の脈動が外表に響くこと。静かで落ち着いているのが良く、あわただしいのは良くない。 ◎4)攣急:腹中の大きな筋が縮みこわばってしまっているのを言う。 ◎5)結塊:食塊、気塊、水塊、血塊などの区別はあるが、腹中に塊ができていることを言う。 ■ 施術法 ① 前段階として、症状のある部位の裏側を揉んで緩める。 ② 次に症状部位の周りをゆっくり揉み解す。 ③ 更に症状部位そのものを静かに押圧するつもりで解す。 ④ その後、ゆっくり軽擦をして終える。 数回行うと、動悸は鎮静し、攣急は解れ、結塊は消失する。 へ進む へ戻る |
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